天王山の中腹に位置し、木津、桂、宇治の三川を望むアサヒビール大山崎山荘美術館。現代美術の企画展や、地域と連携したイベントも度々開催されている。学芸員の山城さんは大山崎町の歴史にも詳しい。「JR山崎駅のホームに、 ここから向こう側は大阪府、こちら側は京都府、と府境を示す線があるのをご存知ですか? 面白いことに、あちら側は“大阪府三島郡島本町山崎”、こちらは“京都府乙訓郡大山崎町”。京都府の山崎には「大」がつくのです。日本各地に山崎という地名はありますが、「大」がついている山崎はここだけです。」 大山崎にはかつて、幕府や朝廷の庇護を受け、油を独占販売する大山崎油座という座が存在していた。その権力は侍の配下にも置かれないほど特別で、実に明治の廃藩置県まで、この地域は独立自治で成り立っていたという。大山崎の地名は、強大な力を持っていた町の歴史背景と関わっていた。「町の歴史も面白いし、風景も良いですね。京都方面へ向かう電車に乗って外を見ていると、急に緑が美しく広がる景色が現われます。わりと都会に近いのに突然田舎の風景になるんですよね。大山崎にはそんな“ 境目”の面白さや魅力もありますね。」 自然に囲まれた美術館。テラスからの眺めはどの季節も美しい。「秋も綺麗なのですが、私は新緑の季節がとても好きです。ここでは、全ての木々が下に見えるのですが、若葉の頃には毎日すごい速度で木が芽吹き、成長していくのがわかります。つい最近まで枯れ景色だったのに!と驚くほど、あっという間にヒューンと緑が伸びてくるのです。それがとても清々しい。」山城さんのおすすめは他にもある。美術館を訪れたときには、館内の扉や調度品、家具の装飾にもぜひ注目したい。きっと密かな発見が楽しくなるだろう。

大京都アーカイブ