レポート

井上 裕加里

現代美術作家

井上 裕加里

現代美術作家

広島生まれ。
2012  倉敷市立短期大学 服飾美術学科 卒業
2014  成安造形大学 芸術学部 芸術学科 美術領域 現代アートコース 卒業
現在、関西を中心に作家活動を行う。


今までの作品について

「人と人との関係性」をテーマに映像作品を制作しています。どのような関係の他者により、 自己のどのような側面に注意が向き、それがどのような行動に結びつき、社会に影響するのかを作品を以って考察しています。

今回のリサーチテーマ

「記憶と忘却と口承」

今回のプログラムでは、”引き揚げ記念館”の方々の協力を得てリサーチと作品制作を行いました。

東舞鶴に位置する引き揚げ記念館では、舞鶴港が海外へ渡った日本軍兵士や一般人が戦後 日本本土へ引き揚げる為の窓口であった史実が語られています。記念館に展示されている引き揚げ者の持ち物や書簡、日記などの収蔵品を見ると、引き揚げとシベリア抑留など戦争の歴史の一端が見えます。また、語り部の方々が、収蔵品を寄贈した人々がどのような戦争体験をされたかお話をして下さると、収蔵品を見ただけでは分からない戦争体験した方々の個人史が見えてきました。

私は、語り部の方のお話で見えてきたその個人史を、史実に埋もれない為にはどのような形で残していくべきかをテーマに作品制作する事としました。

レポート中のハプニング

リサーチを進める中で、シベリアで抑留を経験された方や、満州から引き揚げた方、それを迎え入れる活動をされていた方、舞鶴で集団疎開を経験した方々にインタビューをさせて頂きました。

対話形式のインタビューでは、当時の状況や生活、印象に残っている事は何かといった質問をしたのですが、何十年前もの記憶には欠落してしまった部分が多いようで、お聞きした話の内容を後日詳しく調べると史実と異なるという事がありました。私は、彼らの何十年前の記憶が時間が経つ中で編集・上書きされ、フィクションになっているような感覚に陥り、作品を制作する上とても混乱しました。しかし、満州から引き揚げた経験のある女性が、印象に残っているという当時の満州の曲を歌って下さり、時間と共に忘れた歌詞を美しいハミングで歌っている姿を見た時、彼女が生きてきた時間と歳の積み重ねがハミングの部分に表れているのであれば、忘却した部分がとても美しい物のように見えてきました。

体験したご本人も忘れてしまう個人の記憶を、私たちがどのような形で継承していくかという問題に明確な答えは出ませんでしたが、彼女の記憶を「戦争を体験した人の中の一つの記録」として残すのではなく、「彼女の人生において戦争が何であったか」という視点で記録し、残しておく事も必要ではないかと考えるようになりました。

今後の展開

個人的な要望として、作品制作をするにあたって記録させて頂いた貴重な映像・音声資料と完成した映像作品を舞鶴市へ寄贈させて頂きたいです。
また、今回制作した作品をブラッシュアップしたいと考えている為、舞鶴でのフィールドワークを続けたいと考えています。

今回の展示

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