大平 由香理

画家

大平 由香理

画家

私は自分が出会ってきた風景を形にしている。日本の真ん中である岐阜県で生まれ育ち、そこから制作における旅が始まったと思っている。様々な土地に赴きながら体験的なリアリティと自分の実感を大切に作品制作をおこなっている。

今までの作品について

物語など身の回りの風景や身体感覚など、自分にとってリアリティがあるものを手がかりに、制作を行っている。今までは山形、山梨、福島、長野、大分で滞在制作を行い、その土地に実際に赴き、その土地から感じたことや見た風景を取材し作品化してきた。土地に入っていくにあたり、一人で作品を作るのではなく土地で出会った人々に関わってもらったり、助けてもらったり、時に巻き込んだりしながら私一人だけでは成立し得ない制作をしてきた。写真の再現性にもグーグルアースの仮想空間にもない「体験的な場所のリアリティ」は、私の身体と、身体が生み出す時間をもってのみ実感を伴って定着させられるものとなる。身体の記憶をとどめる色を時間や思いとともにリアリティと確信を持って実体化するように制作している。

今回のリサーチテーマ

福知山には和紙や藍染め、生糸など多くの伝統文化が残っていることを事前リサーチで知っていたため、それらの文化を用いながら作品化できないかと考えていた。
実際、福知山を訪れて伝統文化だけに留まらず、有形無形多種多様な文化が根付いていることを発見した。日々の暮らしの中で文化は形作られていく。長い歴史の中で育まれ、移り変わってきた文化の中で、残るものもあれば失ってしまうもの、形を変えて受け継がれていくものもある

コミュニケーションについて

今回、銭湯に注力し、リサーチをすることにし、今は廃業してしまった2か所の銭湯をみせていただく機会をいただくために人から人へ度々繋いでいただいて、建物をみさせてただく機会を設けていただき、リサーチをすることができた。よそ者である我々が場に入っていく時、場に受け入れてもらい居場所を作っていただいたおかげで場と繋がることができ、あたたかい繋がりを感じ、コミュニケーションの大切さを感じた。銭湯を紹介してくれた方やリサーチ中に出会った方が滞在中も度々気にかけてくれ、一人の人間で出来ることは限られているが、関わり合いの中で自分だけの作品ではなく、町の人との関わり合いの中で物を作る面白さや難しさを感じた。

ハプニング

滞在中に通っていた近くの銭湯がとても雰囲気があるレトロで素敵な銭湯だったが、
番台のおばちゃんとお話していると、お客さんも年々減少し、建物も老朽化し、体力的にも金銭的にも現代における銭湯経営の難しさを改めて考えさせられた。場はとても魅力的だが、その建物への思い入れや受け継がれてきた年月、場を守ってこられた多くの人を思う時、安易に作品化という形でよそ者が介入するのではなく、慎重且つ丁寧に場や人と向き合うことが重要だと感じた。

今後の展開

今回のリサーチで得たことを糧にこれからも自らの実感を元にした作品制作を行っていきたい。近年、科学技術の進歩と共に未知であったことが次々と解明されたことにより、人々の想像力が従来と比べて減退しているのではないかと感じる。情報が氾濫し、未知なる事柄に対しても既にテレビやネットを通して疑似体験をしてしまい本物を経験する事無く、分かったつもりになっている事が多いのではないか。情報過多の現代において自らの内なる声を問うて聞くことは難しいかも知れない。

このような現代だからこそ、芸術と実際に向き合い、実感として心の動きを体感することが必要だと考えている。科学の力では解明できない世界を私の創像力をもって提示したい。

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