美術作家
美術作家
1984年静岡県生まれ
2010年京都市立芸術大学美術研究科漆工専攻終了
京都市在住
人の想像できる範囲とその外側に興味があり、写真やその都度作品に応じた素材を使いながら、インスタレーションを制作してきました。
数年前から個人の属する文化的背景がその個人に及ぼす影響についてのリサーチをしており、その一部として進めていた鬼の研究のために、このレジデンスに応募しました。
また文化的背景を共有する集団の広がりについても関心があり、巨石を祀るという習慣は世界各地に見られることと、福知山市では鬼伝説にまつわる石が数多く紹介されていることから、無数の石の中から一つを選び、見立てることについてのリサーチをプランの軸とする予定でした。
レジデンス期間の前半は鬼、また有名な鬼伝説のある町である福知山市についてのリサーチをし、鬼伝説の石を見に行ったり、日本の鬼交流博物館の鬼についての講義を拝聴しました。
また初日に企画して下さった福知山の観光ツアーで知ることとなったこの土地の文化の作られ方、在り方にも興味を引かれ、それを文化の移動、共有という特徴として捉え、同時にリサーチを進めました。
移動するというキーワードは、定住するということに対するものであり、鬼とされる人々の特徴の一つでもあります。
リサーチを進めようとすると私自身たくさん移動する必要が出てきました。
ある事柄については詳しく教えてもらえるけれど、内容によっては、それは大江町の話、これは城下町の話、もしくは線路の向こうの話、など、
一口に福知山市といっても、地域の方が自分達のこととして語ってくださる範囲はもっと小さな単位に分かれており、
それに十分納得できるほど、それぞれ違う文化や価値観が存在するように見えました。
今回、京都府のレジデンス事業のために滞在しているアーティスト、という枠によって沢山のお話を聞くことができました。
初めは鬼についての新しい知見や、鬼が地域にどのように根付いているのか、歴史と、歴史を踏まえた現在の地域の皮膚感覚のようなものを知りたいと考えていました。
しかしお話を伺ううちに、私にこの地域代表として話をしてくれる方々について話はその語り手とともにあり、その地域とともにあるということを強く感じ、結果として私がそこから知識を得られる、というのみでは不十分に感じました。
それで、聞いたことを解釈して何かに活かすのではなく、そもそも語ってもらう方向を考え始めました。
今回の一連の流れが、レジデンスアーティストと地域の人という役割を通して相手と出会い、それ故にその相手の背景にある地域と歴史と出会う、という体験であったらいいなと思います。
石について、ある山の峠の巨石を見ようとして、地元の方にも随分ご協力いただきました。
観光マップにも記載されているものの、なかなか見つけられず、山の中を彷徨いました。
ついにたどり着いた石は、迫力があるものでしたが、石は石でありそれ以上に何を考えたら良いかわからなくなりました。
それ故に、最初に提出したプランは私の中で頓挫しました。
ただその石にたどり着くために麓の人に伺ったお話や、自分が山を登り、頂上に立った体験から、市の資料では無い事になっている二つの集落を結ぶ道が存在する事、またそれは徒歩でしか通れないような山道ではあるものの、今あるルートに比べ、とても近道であることがわかりました。
バスの便も少なく、行っても帰ってくるが事ができないような場所であったため、印象的であり、自分が道というものをどう定義しているのかということも考えさせられました。
そのような出来事が、「それぞれのコミュニティの心理的な領域とその境界について語ってもらう」
という提出プランに結びついたところもあるかと思います。
今回プランとして「各コミュニティ(領域)の代表者の方々に鬼になって、領土の案内をしてもらう」というパフォーマンスを提出しましたが、私はこれまで他者との協働やパフォーマンスを自らの仕事に取り入れようと考えたことがなく、しかし今回の体験によって関心を持ち始めたため、このパフォーマンスを構成する様々な要素について、リサーチと考察を続けていきたいと考えています。