SHIMURAbros×西田雅希&服部浩之 《 光る海 》
竜宮浜に面する、20年ほど前に廃校となった旧丸山小学校。リサーチのはじめに 訪れたこの場所が、今回のシムラブロスの滞在制作にとっての重要な鍵となった。
事業のキュレーターを、国内ではまだ珍しい「ユニット」としてやってみないかとお声掛けいただいた今回、作家選定にあたり、同じようにユニットとして活動しているアーティストと一緒に仕事ができたら面白いダイナミクスが起こるのではないかと考えた。また、国内でレジデンス事業の増えている昨今、それらにまだ参加歴がなく、新たな視点を持ってやって来てくれる作家を招きたいという希望もあった。そこで、ベルリン拠点の姉弟ユニットシムラブロスを招聘した。
舞鶴といえば、「海軍」「引き揚げ」という、近代史、それも戦争にまつわる歴史で全国に知られる。今回プロジェクトを行うにあたり、既に明白な地域の遺産となっているこれらよりも、もっと隠れた物語や近代以前の歴史、地域固有の普遍的な要素について考え、制作に取り組んでみたいと考えた。エリア全域に目を向けると、日本海に面する舞鶴はもちろん、内陸の福知山でも由良川の難治水問題があるなど、キーワードとして「水」が浮かび上がった。また、天竺を目指した高岳親王や、安寿と厨子王の物語など、地方の歴史・伝説には水と旅に関わるものが目立った。そこで私は、映画をベースに制作を続ける彼らの一貫した関心事である「光」と、映像の成立に必須の条件である「時間」、映画と密接な関わりを持つ「物語性」に着目した。 舞鶴の土地と、水、光、時間、物語といった要素への、彼らなりのアプローチを見たいという出発点から、共同作業が始まった。
作家から出た第一案は、舞鶴とユダヤの関係をリサーチする、というものであった。戦時中、杉原千畝のビザを手に舞鶴に上陸した亡命ユダヤ人たちがいた、という情報を目にした二人は、隠れた歴史、海を介した旅、現在ベルリンで暮らす自分たちとも共通する難民たちの異邦性などの点に興味を持った。近代史を直接扱うことは考えていなかった我々ではあったが、この視点は面白いと感じた。だが少し調べてみると、この内容で進めるには、今回は時間がなさすぎることがわかった。そこで振り出しに戻った二人は、冒頭の旧丸山小で、壁に残るかつての同校児童による標語の中にあった「光る海」という語に出会う。その独特な表現は彼らに強い印象を与え、同時に、割れた鏡と水とライトを使って波を表現する映画撮影の一手法を想起させた。光る海とはどういう海だろう。映画の中の表現としての海と、いま目の前にある舞鶴の海。これら両方を繋げ、光る海にまつわる独自の物語を紡ぐことは可能だろうか。このような問いを胸に、会場として選んだ幕末〜明治期の古民家・旧山内家でインスタレーションを展開した。舞鶴の海の映像と、鏡と水と光の「海」を主軸に、リサーチの道中で出会ったもの、舞鶴に伝わる民話、市民から集めた光るものなども用い、現実の海と虚構の海が循環的な影響を生む空間をつくることを目指した。同時に屋敷裏手の蔵では、 シンガポールの光の歴史に焦点をあてた過去作『Chasing the Light』をあわせて上映し、海を渡ってひとつの光からまた別の光へと続く流れを示唆した。
夏の初めの始動という短期間のプロジェクトにも関わらず、作家の持つ幸運に助けられ、地元協力者たちとの素晴らしい出会いによって当初の想定以上のことができたことは喜ばしかった。同時に、スタッフ数や人員配置、地元との連携、作家を迎えるための滞在先、参加作家同士の交流など、事業インフラの基本整備における今後への課題も浮き彫りになった。だが、初回というのは総じて試行錯誤であり、手探りでの展開となるのはある程度仕方がない。この経験を基に可視化された課題点をふまえ、次回をよりよくしていくため皆で尽力したい。
舞鶴市行永1792 舞鶴市立青葉中学校西側
10/7(土)~9(月・祝)10:00~17:00 / 11/4(土)5(日)10:00~17:00
□ JR「東舞鶴駅」から徒歩18分
□ 京都交通バス 東西循環線「行永」下車徒歩3分
※駐車場は旧山内家の敷地内をご利用ください。
アーティスト
アーティスト
ユカ(1976年生まれ。多摩美術大学卒後、英国セントラル・セント・マーチンズ大学院にて修士号を取得)とケンタロウ(1979年生まれ。東京工芸大学
映像学科卒)による姉弟ユニット。新たな映像装置の発明によって既存の枠をこえたイメージを実体化するアーティスト。平成21年度 [第13回]
文化庁メディア芸術祭アート部門優秀賞受賞。カンヌ(仏)及びベルリン(独)国際映画祭での上映をはじめ、国立新美術館(東京)、シンガポール国立大学美術館、台北現代美術館、パース現代美術館( 豪)、ミュージアムクォーター
ウイーン( 豪)などで作品を展示。2014年にポーラ美術振興財団の助成を受けベルリンへ拠点を移し、現在はオラファー・エリアソンのスタジオにリサーチャーとして在籍。
www.shimurabros.com
インディペンデント・キュレーター
インディペンデント・キュレーター
1978年愛知県生まれ。2006年早稲田大学大学院修了(建築学)。2009年-2016年青森公立大学国際芸術センター青森[ACAC]学芸員。2017年より秋田公立美術大学大学院にて教鞭をとる傍ら、アートラボあいちディレクターとしてアートセンターの運営にも携わる。また、アジア圏を中心に、展覧会やプロジェクト、リサーチ活動を展開している。近年の企画に「十和田奥入瀬芸術祭」(十和田市現代美術館、奥入瀬地域 |2013年)や、「Media/Art Kitchen」(ジャカルタ、クアラルンプール、マニラ、バンコク、青森|2013年~2014年)、「あいちトリエンナーレ2016」、「アッセンブリッジ・ナゴヤ2016」、「ESCAPE from the SEA」(マレーシア国立美術館、Art Printing Works|2017)などがある。
キュレーター
キュレーター
慶應義塾大学文学部卒業、ロンドン大学UCL美術史学修士課程修了。2007年に渡英後、美術大学、美術館から商業画廊まで、公と民のさまざまな角度から教育、アーティストマネジメントと展覧会企画に携わる。あいちトリエンナーレ2016アシスタント・キュレーターを経て日本に拠点を移し、フリーランスでキュレーションと執筆を行っている。近年の活動に、Tabakaleraリサーチ・レジデント・キュレーター(スペイン・サンセバスチャン、2016)、Devi Art Foundation +The Japan Foundation New Delhi共催展覧会「On Line Dot」キュレーター(インド・ニューデリー、2017)など。