大京都 2019 in 京丹後 ~風景泥棒~
開催期間:10月11日(金)~14日(月・祝)、18日(金)〜20日(日)、25日(金)~27日(日)
展示会場:吉村機業(株)旧織物工場 / 桜山荘 / 他
ゲストアーティスト:SIDE CORE(アーティスト)
招聘アーティスト:パスカル アンベール(ミュージシャン/作曲家),トゥリー ロリタ(造形作家)
京都府では、アーティストが地域交流しながら創作活動を行うことで地域住民に幅広い文化芸術に触れる機会 を提供し、地域の活性化へ繋げる取組としてアーティスト・イン・レジデンス事業「京都:Re-Search」を実施し、 地域が本来持ち得ているポテンシャルやその魅力をアートの視点から引き出すことを試みています。今年度は、 2018年度に行った「京都:Re-Search 2018 in京丹後」でのリサーチをもとに、アーティストによる地域の新しいアート ドキュメント(=記録)を作成する『大京都2019 in 京丹後』を開催します。参加アーティストは、「京都:Re-Search 2018 in京丹後」への参加アーティスト5名と、昨年度講師として招き、京丹後を共にリサーチしたSIDE CORE をゲストアーティストに迎え、約2ヶ月におよぶ滞在制作と、そのプロセスを京丹後市内各所で公開し発表します。
記憶の解凍
うだるような暑さの中、最初に連れて行かれたのは、丹後ちりめんで知られる峰山町の「丹後震災記念館」だった。1927年(昭和2年)3月7日、丹後半島北部で最大震度6、マグニチュード7.3を記録した北丹後地震が発生。死者2,925人、負傷者7,806人の大災害であり、そのなかでも峰山町は住宅や織物工場など家屋の97%が焼失、人口に対する死亡率は22%に達するなど、最大の被災地となった。
震災記念館は、峰山町の市街地を見下ろす丘の上に建っていた。震災から二年後の1929年に竣工しているが、当時としては珍しい鉄筋コンクリート造で、一井九平設計の堂々たる近代日本建築である。しかし現在、この記念館の入り口は閉ざされている。なぜなら、老朽化により耐震面で問題があるとして、2012年4月から施設への立ち入りが禁止されているからだ。
ぼくたちは、建物の周囲を歩きまわり、できる限りこの記念館の全貌を見ようとしていた。すると、SIDE COREのtohryが北側のガラス窓を指差し、中をよく見るように、ぼくを促した。ガラスは古び、汚れで白く濁っていて、建物内の様子は鮮明には見えなかったが、かろうじて体育館のような講堂になっているようだった。さらに目を凝らすと、講堂の壁に、大きな絵画が3枚かけられていることがわかった。長い間、劣悪な環境に置かれていたせいで劣化した、灰色っぽいその絵は、洋画家の伊藤快彦が北丹後地震の様子を描いた「震災画」だった。
未曾有の震災を経験し、その悲劇を忘れぬようにと作られた、当時最高水準の建築と絵画が、氷漬けにされたまま眠っている。東日本大震災を経て、今こそまさに、北丹後地震の記憶に向き合わなければならないぼくたちにとって、これほど歯がゆい状況はない。
それから1年がたち、京丹後を再訪して『風景泥棒』を見た。
アーティストたちは、時間をかけて、この土地の記憶に向き合っていた。経ヶ岬灯台を使ったSIDE COREの《岬のサイクロプス》は、パリ万博で購入した灯台のレンズが、現在もそのまま使用されていることに着目し、京丹後から日本の近代化を考える傑作だった。
前谷開は自身の身体と写真を介して、京丹後の断層の記憶に迫ろうとし、高橋臨太郎の《Mezzo scratcher》は、かつてこの地に響き渡っていた織機の騒音、リズムを呼び出し、石毛健太の《荒れ野の声 AM/FM》は、今も京丹後の「外」から流れ着く漂流物や電波をつかまえようとする。
「鳴き砂」で有名な琴引浜の保全活動に着想を得た鷲尾怜の《sand and water》は、その土地固有のもの(名物)を生み出し、守ろうとする人工的な介入自体が、ある種の倒錯として固有性を喪失させる可能性を示唆し、京都:Re-Searchも含めた地域アート的活動へ批判的眼差しを向ける。その鷲尾の眼差しに間接的に呼応するかのように、田中良佑の《夜が嘆きに包まれても》は、京丹後7姫伝説の切支丹「細川ガラシャ」の足跡を追い、地縁から徹底的に切り離された「孤独」を追いかける。
『風景泥棒』展は、近年乱立が止まらない地方芸術祭、地域アートのなかでも、稀有なアプローチと成果であった言ってよい。しかし、この土地にはまだまだ、解凍されるべき記憶が眠っている。文化行政の宿命である「単年度決算」の時間軸、リズムでは決してとらえることのできない、深く、重く、豊かな記憶が。
黒瀬陽平(美術家/美術批評家)
ゲストアーティスト・招聘アーティスト
〈招聘アーティスト〉京都府とフランスオクシタニ州の両地域間でのアーティスト・イン・レジデンスを中心とした文化交流交換プログラム
プログラム
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アーティストと共に作品鑑賞、公開トーク
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アーティストと共に作品鑑賞、公開トーク
場所:吉村機業(株)旧織物工場 -
アーティスト×キュレータートーク
和多利浩一×SIDE CORE×参加アーティスト
会場=VOU/棒 〒600-8061 京都府京都市下京区筋屋町137 TEL=075-744-6557
トークゲスト:和多利 浩一|Koichi Watari -
展示ツアー / クロージングパーティー